AGE論文

 

http://dfo.m-review.co.jp/articles/005-e1-002/
はじめに
グルコース,グリセルアルデヒド,フルクトース,メチルグリオキサールなど単糖は,タンパク質・脂質・核酸などのアミノ基と非酵素的に糖化反応を引き起こし,終末糖化産物(advanced glycation end products:AGEs)を形成するに至る1)2)3)4)5)6)7)8)9)10)。糖尿病や加齢,慢性炎症下では,生体内でのAGEsの蓄積が亢進することが知られている1)2)3)4)5)6)7)8)9)10)11)。さらに,AGEs化された高分子は三次構造が変化し,その機能が劣化するだけでなく,細胞表面受容体であるRAGE (receptor for AGEs)によって認識され,酸化ストレスや炎症反応を惹起して心血管病や癌,骨粗鬆症,アルツハイマー病など多くの老年疾患の発症,進展に関わることが報告されている1)2)3)4)5)6)7)8)9)10)11)また,食事やタバコに由来する外因性のAGEsの過剰摂取により,さまざまな疾病が引き起こされる可能性も推定されている12)。

ペントシジン,クロスリン,ピロピリジンなどの一部のAGEsは,その構造に由来する特異的な蛍光を発生する2)13)。この性質を利用して,近年,非侵襲的に皮膚の自家蛍光(skin autofluoresence:SAF)値を定量することにより,おおよそのAGEs蓄積量を推定する方法が開発されてきた2)13)。1型糖尿病患者を強化療法と通常療法群に分けて平均6.5年間治療介入し(Diabetes Control and Complications Trial:DCCT研究),その後の合併症の進展を長期にわたってfollow-upしたEDIC-DCCT研究では,DCCT研究終了時の皮膚コラーゲンのAGEs量が高値の群ほど,糖尿病性腎症,網膜症,頸動脈の内膜中膜複合体肥厚度の進展が顕著であることが明らかにされている11)。このことからも,皮膚のAGEs量を非侵襲的に計測する臨床的なニーズとその意義は大きいと予想される。つまり,SAF値を測定し,簡便に組織に蓄積したAGEs量を定量化することで,糖尿病や加齢に伴う各種疾患の進行度やその予後を推測することが可能となるかもしれない。

そこで本総説では,非侵襲的機器を用いたSAF値測定の原理と計測上の留意点,ならびにこれまでの臨床的なエビデンスなどについて簡単に解説する。なお,わが国では,AGE READER mu(Diagnopticsテクノロジー社,オランダ:正規総輸入代理店セリスタ,東京),TruAgeスキャナー(モリンダ,米国),AGEsセンサ(シャープ,兵庫)の3機種が存在するが,前2機は同一機種で,代理店を介して購入できるのはAGE READER muだけであるため,本総説では,AGE READER muとAGEsセンサのみ取り上げることとする。

SAF値測定の原理と計測上の留意点,ならびに臨床的なエビデンス
1)AGE READER mu

AGEsは紫外線照射により, 自家蛍光を発する。本機器では,皮膚に励起波長(300~420nm)を照射し, 皮膚から発せられる蛍光波長(420~600nm)を測定して,蛍光強度の積分値をSAF値として表している2)。計測にあたっては,利き手の肘の下5〜10cmの内側(手のひら側)の部位で,あざや傷,入れ墨,ほくろ,体毛などのない所を選び,少し場所を変えながら3〜5回自家蛍光を測定し,その平均値からAGEs値を推定する2)13)14)。表皮および真皮層約1mmに沈着しているAGEsの測定が可能であることから,測定の対象となるのは,皮膚のコラーゲンや皮下の血管壁に蓄積されたAGEs,あるいは,皮下の細小血管中のAGEsだと考えられる13)14)。自家蛍光を測定するために照射される紫外線量は軽微であるが,皮膚疾患(アトピーなど)を抱えた患者では影響を受ける可能もあり,測定を避けるようにする。測定に際しては,被験者の腕が測定窓を完全に覆い,周囲の光が測定窓から入り込まないようになっているかを確認し,もし,測定窓画面が汚れている場合は,70%アルコールを含ませた柔らかい非蛍光性の布で汚れを拭き取る14)。測定者が異なることによる測定値のバラツキ(変動係数)は8%以内,同じ測定者が何回か測定を繰り返す際のバラツキは7%以内であることが報告されている14)15)。

ボディーローション,日焼け止め,化粧クリーム,日焼けクリームは,SAF値の測定に影響を与える可能性がある。一般的にボディーローションで18%,それ以外のものでは2倍以上,測定値が高値を示す15)。乳液以外は石けんで洗ってもその効果が残ることが知られており,日焼け止めで4日,日焼けクリームで2週間影響が残り,ボディーローションの場合も,石けんで落としても7%程度は影響が残ることが知られている15)16)。したがって,SAF値を測定する前少なくとも3〜4日間はこれらの使用を控えるようにし,日焼けクリームを使用していた場合は,2週間ほど空けてから測定するようにする15)16)。さらに,運動,風呂上がり,カプサイシンクリームなどにより皮膚の血管が拡張している時はSAF値が低くなり,また,食事の影響でSAF値が高めに出ることも知られている15)16)17)。また,透析患者での検討ではあるが,皮膚の反射率が低いとうまくSAF値を測定できないケースがあり,白人の8.5%,東アジア人の25%がうまく測定できなかったとの報告も存在する18)。一般的に浅黒い肌は光をよく吸収するため,SAF値が低めに出る。

皮膚の蛍光物質には,AGEsのみならず,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)やフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD),ポルフィリンなどの他の生体物質も含まれているものの,AGE READER muで測定したSAF値が皮膚の蛍光性および非蛍光性のAGEs量と相関することが示されている2)13)。さらに,本機器で測定したSAF値が,日本人を含めた糖尿病患者においてさまざまな血管合併症や総死亡を予測するマーカーとなりうること2)19),血管のstiffnessや左室の拡張障害,動脈硬化巣の不安定プラークの程度と相関すること2)20),慢性腎臓病患者における心血管死のリスクを予想しうること2)21)22)などが報告されている。また,日本人一般住民約11,000名を対象としたSAF値の解析から,年齢とは独立して,生活習慣の歪み(運動不足,喫煙,精神的ストレス,睡眠不足,朝食抜き,甘いものを多く摂る)によってもAGEsの蓄積量が亢進することが明らかにされている23)。

なお,AGE READER muは,医療機器として厚生労働省の承認を受けており,機械間誤差や定期的なキャリブレーションの管理なども義務付けられていて,診断,治療目的で使用することが可能である。

 

2)AGEsセンサ

近年,わが国で開発されたAGEs測定機器で,利き手でない手の中指をクリップする形でSAF値を測定するタイプの機器である。同部位では,大きな血管がなく,メラニン色素の蓄積量も少ないため,それらの影響を受けにくいとされている。また,測定上のバラツキ(標準偏差)が,他部位に比べて同部位で小さいことが示されている24)。しかし,測定者間,測定者内誤差は明らかでなく,測定原理の詳細も開示されていない。これまでに組織AGEs量との相関を示した論文は1つもないが,2型糖尿病患者において本機器で測定したSAF値が血中のmethylglyoxal-derived hydroimidazolone-1(MG-H1)値と相関し,血管合併症の数が増すにつれて高値を示すことが少数例の臨床研究で報告されている24)。

AGEsセンサは,医療機器として厚生労働省の承認を受けておらず,この機器で測定したSAF値の結果を治療,診断などいかなる医療行為にも用いることはできない。この点には,留意すべきである。

おわりに
わが国で使用可能なAGEs測定器2機種について,測定原理と計測上の留意点,ならびにこれまでの臨床的なエビデンスなどについて簡単に解説した(表1)。両機種を用いたさらなるデータの蓄積に期待を寄せたい。

表1. AGEs測定機器の比較

http://dfo.m-review.co.jp/articles/005-e1-002/

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です